ホスピス緩和ケア病棟から在宅医療へ
ホスピス緩和ケア病棟で17年余りいろいろな経験をさせていただきました。そこで学んだことの中から「看取り」について少し紹介します。
外科医だった頃の私は最後まで全力で治療することが医者としての役目であり、使命だと思っていましたので、病院での看取りというものは、助けてあげられなかった“敗北”だという意識がありました。
それも間違いではないと思いますが、医師としての力を全力で注いで治療をしてもなお最終的に助からなかった時、患者様やその家族は医師が全力を尽くしてくれたから納得の死だった、とは必ずしも思わないでしょう。
日本の医療は随分と進歩してきましたし、そのお陰で寿命も延びましたが、人の命には限りがあることは今も昔も変わりません。医師であっても助けられない命は当然あります。
また、昔と違い最近では病気が分かっても治療を望まない人もいますし、病気をきっかけに治療の時間は人生の終わりに向けて整理する時間に使いたいと話された方もおられました。
緩和ケア病棟では本人にもご自分の病状を正確に理解してもらい、これからのご希望を伺うことを大切にしていますが、同時に家族にとっても心残りのないと言いますか、振り返ったときに後悔が少なくなるような今まさにこの時間を大切に過ごして欲しいと思い伝えながら、スタッフは毎日心を込めて患者様やご家族と接しています。
患者様にとって最後まで自分で決断することができる人は、きっと自分の人生に“納得”という合格点を与えられるのだろうと思いますし、納得ができる人生の終え方をされた方は、やはり看取りも穏やかでした。
また、残された家族は遺族と呼ばれたりしますが、遺族にとっても納得できる看取りであったのかはとても大切なことだと学びました。
コロナが流行した頃は、大切な家族の最期に面会すらできないという悲惨な時期もありましたので、世の中には“納得できなかった大切な人の看取り”を経験された方は沢山おられると思います。
看取りだけではありませんが、緩和ケア病棟で学んだ多くのことを、これから地域に還元できるようにしていきたいと思っています。
ひとりひとりのご希望を伺い、大切にしながら患者様やご家族にとって納得ができる医療を提供できるクリニックを目指して参りたいと思います。
これからどうぞよろしくお願いいたします。
まえざとホームクリニック
院長前里 喜一
(まえざと きいち)